1、はじめに
5月号の憲法シリーズ1で、日本国憲法の制定が国家主権の発動ではなかったという歴史の概略を学びました。今月の憲法シリーズ2では、国家主権とは何か、日本の国家主権は大丈夫なのか、そして国家主権が奪われたらどうなるのか、について学習します。
2、国家主権とは?
(1)国家とは?
全ての国家は、次の3つの要素(国家の3要素)からなっています。
〇国家主権 〇領域(領土・領海・領空) 〇国民
(2)国家主権とは?
国家主権とは、一定の領域と国民を持ち、他国からの支配や干渉を受けずに自国のことを自主的に決定する権利のことです。
3、日本の国家主権は大丈夫?~日本を取り巻く世界の現状
わが国は今、未曽有の危機に直面しているといわれています。国家主権が侵される危機が迫っているということです。国家主権なくして国民の主権もありません。ですから主権者となる皆さんにとって、まず国家主権の危機の実態を正しく把握することが求められます。何故ならその状況把握なくして正しい主権者としての判断ができないからです。ですから、まず我が国を取り巻く世界の事情について学習しましょう。
(1)「力による現状変更」に突き進む中国
①軍事費が27年間で41倍に
急速に経済力をつけた中国は、毎年、前年比10%台の軍事費増を続けて軍事大国となりました。過去27年間で軍事費の伸びは41倍に達しています。
その経済力と軍事力を背景に、2049年(中華人民共和国建国100周年)までに世界制覇を目指すことを国家戦略としていることが明らかとなっています。
②力による現状変更」の真意
ア、2020年までに『アジアで優位な地位を確保する』
※『』内は、南西諸島以西を中国の支配下に置くという意味。
イ、2035年までに『アジア太平洋地域で大きな優位を確保する』
※『』内は、ハワイ以西を中国の支配下に置くという意味。
ウ、2049年までに『世界の平和維持に大きな影響力を持つ』
※『』内は、アメリカを抑えて世界制覇を目指すという意味。
との方針を掲げている。
これは中国による世界の一国支配、米国にとって代わるのだということを、彼らは百年単位で考えているのです。 (『月刊正論28年10月号』 本村久郎(元空自幹部学校教育部長))
③尖閣諸島が危ない
その戦略に基づいて、東シナ海や南シナ海で国際法を無視し、勢力圏を拡大しつつあります。特に南西諸島(鹿児島から沖縄を経て台湾に至る列島群)を支配下におくための行動に出ています。尖閣危機はその一つなのです。南西諸島が中国の支配下に入ったら、日本全体が実質的に中国共産党の支配下に入ることになってしまいます。
(2)朝鮮半島が緊迫化
①最近の北朝鮮情勢
北朝鮮は核(原水爆)実験やミサイル発射実験を繰り返し、アメリカや日本、韓国などへの挑発を繰り返しています。
アメリカのトランプ政権は、このままでは北朝鮮が大陸間弾道弾(大陸から大陸へ届く長距離弾道ミサイル)でアメリカを核攻撃できるようになるとして危機感を強め、いつでも軍事行動がとれる状態でにらみを利かしています。いつ朝鮮半島で戦争が始まるかわからない緊迫した情勢が続いています
朝鮮半島有事となったらわが国も無傷ではすみません。想像を絶する被害が我が国にも及ぶことは間違いありません。朝鮮半島には韓国に約6万人、そして北朝鮮には拉致された同胞がまだたくさん救い出せないまま残されています。これらの同胞を救い出すことだけでも困難を極めるのです。
②北朝鮮による日本への核攻撃の恫喝がやまない!!
こんな中、北朝鮮は、日本への核攻撃の恫喝を繰り返してきました。いつ北朝鮮の核兵器を搭載した弾道ミサイルが君の町に飛んでくるかもわからないという緊迫した状況にあることを指摘しておかなければなりません。
4、国家主権を奪われた民族の悲劇
皆さんは、現在も世界では国家主権を奪われて悲惨極まりない苦しみの中で生きていくしかない多くの人々がいることを信じられますか。私たちが住む東アジアの一角でその現実が進行しているのです。それは中国によって国家主権を奪われ、自治区として中華人民共和国に組み込まれた3つの国のことです。それはチベット自治区と新疆ウイグル自治区、そして内モンゴル自治区です。ここではウイグル自治区とチベット自治区の悲劇について関係者の証言を紹介しましょう。
新疆(しんきょう)ウイグル自治区の悲劇
<ラビア・カーディル(世界ウイグル会議議長)さんの証言>
中国の人民解放軍による大規模な虐殺事件が相次ぎ、中国語が強制されてウイグルの文化が潰され、自治区内のタクラマカン砂漠では46回に及ぶ事前予告なしの核実験で多くのウイグル人が被曝して亡くなり、中国の自治区に組み入れられてからの66年間で推計百数十万人を超える人々が殺害された。
<在日ウイグル人代表エイサ氏>
「毎年、14歳から25歳のウイグル人女性たちが故郷から遠く離れた大都市に連れていかれ、働かされます。彼女らはやがて漢民族の男と結婚させられるのです。ウイグルの男は結婚相手を奪われ、ウイグルの血が途絶えさせられつつあります」
チベットの悲劇 「私たちは独立は求めない」(「チベット自由への戦い」櫻井よしこ)
ダライ・ラマ14世も、ロブサン・センゲ首相(亡命政権)も「独立は求めない」と繰り返す。この言葉は、中国共産党と対峙する中で、チベット人はチベット人として生き残らなければならないという決意そのものであろう。(中略)
チベット亡命政権が、チベット独立の方針を打ち出したと仮定する。中国共産党は直ちにチベット人を「分離主義者」として非難し、チベットの地に弾圧の嵐が吹き荒れるだろう。チベット亡命政権への圧力もさらに高まるに違いない。
そうなったとき、どの国がチベット民族を助けることができるだろうか。(中略)
ダライ・ラマ法王及びセンゲ首相の、「チベットは中国の一部で構わない。ただし、チベットの文化を大事にする高度な自治を求める」という主張は、そのような厳しい国際社会の現実を熟知したうえでの言葉であろう。
一度(ひとたび)、他国から日本の国家主権が奪われたなら、おびただしい国民の命や自由や財産が奪われ、日本の世界に誇る文化も奪われ、独立を回復する可能性は永遠になくなることを、これらの証言から読み取ることができますね。